Jennifer Egan @ New Yorker
長い間、読書にコンプレックスがあった。
なかなか本を読み通すことができない。興味をひかれて手に取るまではいいのだが、数ページ読んで放り出してしまう。読み通せるのは、スリラーや推理小説、いわゆるページターナーと言われる純粋な娯楽小説のみ。結局、本を読まずにレビューばかり読んでいるという状態だった。レビューのほうが面白いくらいだった。
ヴァージニア・ウルフは読書をエロチックな「恍惚状態」と表現した。私もヴァージニア・ウルフのような浸りきる喜びを感じたい。そう思って自分が本当に浸りきれる本を探し始めた。それはとりもなおさず、本に何を求めているのかを自問することでもあった。なぜ多くの本に不満を感じるのか。この物足りなさはどこからくるのか。反対にどういう本だったら満足できるのか。
探求の末、求めているものに出会った。それが、ジェニファー・イーガンの『古城ホテル』(原題:The Keep)だ。決して平坦な出会いではない。何回もすれ違い、回り道をした末にようやく本書の中に求めているものを見出した。実は作品に興味を持って図書館で借りた後も最初の1ページを見ただけで放置していた。あるいは原文で読んでいたらもっと早くに作品の魅力に気づけたかもしれない。訳文も決して悪いわけではないが(むしろ読みやすい良心的な訳だと思うが)、残念なことに原文の持つおかしみのようなものが失われている。少なくとも最初の1ページでは。