2019年10月6日現在、北京大会での大阪なおみ選手の活躍にワクワクしながら、久しぶりに公開します。(2019.10.06)
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どのスポーツにもユニークな歴史がある。
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どのスポーツにもユニークな歴史がある。
当然、女子テニスには女子テニス特有の、男子テニスとは異なる歴史がある。それはテニスの歴史であると同時に女性の歴史でもある。日本にいると実感は薄いけれど、現在の形での女子テニスは女性解放運動がなければあり得なかった。ポッドキャストNo Challenges Remainingのエピソード224「テニスの歴史で最も重要な10人の女性」は、それまでテニスにほとんど無関心だった私がビリー・ジーン・キングやクリス・エバーツという名前に思い入れを感じるまでに、女子テニス史の面白さを伝えてくれた。
番組のホストは、ニューヨークタイムズのライター ベン・ローゼンバーグとWTCインサイダーのコートニー・ニュグエンだ。女子テニスに思い入れを持つ二人の熱い議論が楽しい。「重要な10人」の選択基準は、女子テニスのあり方にどれだけ影響を与えたかということだ。選手としてのコート上の成績だけに注目しているわけではなく、プロテニスをプロテニスならしめた、ビジネス面や女性の地位向上をめぐる戦いにも、というよりむしろそちらに重きを置いている。また、ベンは彼の選択、特にそのうちの一人について「テニスというスポーツの現実についての僕のシニシズムを表している」とコメントしている。
ベンとコートニーのあげた「重要な10人」は以下の通りだ。最初の5人はコートニーのリストに挙げられた5人で彼女は5人しか上げなかった。ベンはさらに5人を挙げたが、その10人に順位はつけられないと言う。ここでは、二人のリストに共通の5人と、ベンのリスト上の物議を醸したある女性について特に述べる。
ビリー・ジーン・キング
彼女なくして現在の女子テニスはなかった。選手であると同時にWTAの創設者の一人でもあったビリーはツアーの真っ最中にニューヨークでの役員会議に飛び、次の試合までに戻るというスケジュールをこなしながら、WTAの基盤を築いた。フェミニズムの象徴的存在であると同時に、ビジネス意識も持ち、ファッションや美しさなどの女性らしさを利用して女子テニスを売り込み、世界一の女子プロスポーツリーグを作った。
ビリーが始めようとした女子テニスリーグの象徴だったのがクリス・エバーツ。クリスが観客を集めた。その美しさとコート上での強さによって人の目をテニスに向けさせた。彼女は女性らしいと同時に真剣なアスリートであるという絶妙なバランスを持っていて、男性コメンテーターの尊敬をも集めた。
マルチナ・ナブラチロワ
クリスのライバルだったのがナブラチロワだ。二人は競り合って、女子テニスをけん引した。テニスにプロ意識を持ち込み、期待値を上げた。ビリー、クリス、ナブラチロワの三人が女子テニスの黄金時代を作り上げた。
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(Photo by Jean-Yves Ruszniewski/TempSport/Corbis/VCG via Getty Images)
クリス・エバーツ(Chris Evert)
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マルチナ・ナブラチロワ(Martina Navratilova)
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ビーナス・ウィリアムズ
ウィリアムズ姉妹の姉の方。コートニーがセリナでなくビーナスを選んだのは、彼女が年長者として先に道を開いたから。また、女性の賞金を男性と同等なものにすることを要求するために立ち上がった功績も多くの人の認めるところだ。彼女はウィンブルドンでの大会でオール・イングランド・クラブの役員会の前に立って同一の賞金を求めて訴えた。それが男性と同等な賞金を獲得するための大切な一歩だった。
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(Getty Images)
ビーナス・ウィリアムズ(Venus Williams) |
李娜(Li Na)
李娜(リー・ナ)
このポッドキャストの肝は何と言ってもリー・ナだ。リー・ナについて語るための番組だったのではないかとさえ思う。リー・ナはグランドスラムで2度優勝しただけだし、ランキングが1位になったことはない。
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でも、中国の10億の人口に対してテニスの門を現実的な意味で開いた。そのインパクトは試合会場の広告に多数の中国企業の名前が並ぶことから実感できるし、欧米が金銭的に大会をサポートできなくなる中で中国が8つのメジャーな大会を主催するようになり、多額の賞金を提供していることからも分かる。それによって多くの雇用が生みだされ、女子テニス産業が維持されている。彼女はまた国内で完結していた中国のテニス界に風穴を開け、ヨーロッパ人のコーチの下で世界の舞台に飛び出すことで、その後の中国人選手のモデルとなった。今や多くの中国人がグローバルに進出している。
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アンナ・クルニコワ
ベンのシニシズムの的であるアンナがどういう存在だったかは、この写真を見れば想像がつくだろう。彼女は、それなりに強い選手だったけれど、大会で優勝したことはない。彼女の知名度はテニスの強さによってではなくルックスによる。でも、彼女がいることで席が埋まる。WTAはそのグラマラスな魅力を積極的に利用した。そのような派手さはもともとWTAのDNAに組み込まれているとコートニーは言う。WTAはスポーツ性だけでなく女性のルックスをも売り物にすることによってこれまで栄えてきたのだ。
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アンナ・クルニコワ(Anna Kournikova)
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それ以外に上がった名前は最初のアフリカ系アメリカ人のテニス選手アリサ・ギブソン(Althea Gibson)、パワーテニスの先達モニカ・セレス(Monica Seles)、スター性をもって初めてテニスを職業として成立させたスーザン・レンレン(Suzanne Lenglen)、そして現在のアメリカの文化的象徴となっているセリナ・ウィリアムズ(Serena Williams)だ。
読者は、この話がアメリカ中心であることに気づいたかもしれない。実際に10人の中でアメリカ人でないのはリー・ナとスーザン・レンレンの二人だけだ。日本人選手の名前は一人も上がっていない。
そもそも女子テニスというのはアメリカで発展したスポーツだ。そして、日本人でそれほどの影響力を持った選手がいたのか、と考えると、そのような人はいない。ただ、番組のなかでも大阪なおみへの言及はあった。二人の立場は、彼女は若すぎてまだその影響力は分からないというものだった。さらに、「日本の文化について知る限りでは、大阪なおみが登場したからといって日本が5つの大会を主催するようになるなんて考えられないし、女子スポーツが大きく広がるとも考えられない」との意見も提出された。コートニーのこの予想が正しいかどうかは時の答えを待つしかない。
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