最初から最後まで爽やかな物語。人に騙されて事業に失敗し妻に離婚された男性が、交通事故で植物人間のようになりながら、オンラインゲームの中で生存している息子のために、仲間を集めて息子をゲームの世界大会に出場させる。
物語は父親視点で進むのだけれど、暢光という名前だけあって人一倍暢気な彼が、その暢気さによって人生を失敗しつつもその暢気さによって人の心を動かして奇跡を成し遂げていく。
文芸誌に連載されているのを見かけて単行本を手に取った。文芸誌で連載された作品に興味を感じるのは珍しい。なぜそこまで興味を引かれたのかとつい考えてしまう。理由の一つはその軽やかな文体だと思う。いわゆる「文芸誌」に掲載される作品の持つ文芸臭さがなく、漫画とかヤングアダルトの作品を読むように気持ちよく読める。気持ちよさを作り出しているのは小説を支える人間観だと思う。男性視点なのに、おっさん臭さやマッチョさがない。一昔前の小説にありがちなじめっとした感じもない。事業に失敗して離婚され4畳のアパートに住んでウーバーの配達をしていても、どこかカラッとしている。また、小説を動かす道具としてのゲームの絡め方もよい。なんの事件も起きなくてもゲーム自体が物語の推進力になる。起承転結を作り出す。と同時に人を集める場となる。
悪い人が全く出てこないので最後まで嫌な気持ちになることなく読めた。途中で退屈することもなかった。ポジティブな作品でも全然しらけることなく面白く読めるのは、作者の力だと思う。
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