11月5日(土)
第5章
ソンジャとハンスの関係が深まっていくこの章は自分自身の恋愛経験を思い出して苦しくなり、一旦本を置かなくてはならなかった。
あまりに自分のことのように感じたので、作者はここに書かれたような恋愛を経験したことがあるのだろうか、と疑問に思った。でも、少し経って読み返しながら考えてみると、別にハンスのような男性に恋をしたことがなくても、人に惹かれる気持ちは共通するものであることとともに、私が本章で描かれたソンジャの経験に自分の経験を重ね、書かれている以上の意味を読み取っているのだと気づいた。恋愛で経験する高揚感の全容を言葉で再現することはできない。でも、並べられた言葉によって読者の想像力を喚起することはできるのかもしれない。
コ・ハンスはソンジャにとって力の象徴であると同時に見たことのない広い世界の象徴であり、ソンジャはコ・ハンスにとって失われた純真さの象徴だ。ソンジャの目を通して、コ・ハンスが少年の顔に変わっていく様子が描かれる。
第5章は、夢のような気分に浸れる束の間の喜びの章だ。コ・ハンスとソンジャは、海辺、そしてきのこ狩りの森で逢引するのだけれど、その一瞬一瞬が光で満ちて輝かしい。「海辺の景色は見たことがないほど輝いていた」と書かれるように景色までが輝き、浮き立つ二人の気持ちを表している。
特に二人がきのこ狩りで出かける森は聖域のようだ。
聖域の中で二人は階級差も気にせず、ソンジャの貧しさも、コ・ハンスの後ろ暗い過去も、日本の植民地支配も気にせず、好きな人と時間を共有する純粋な喜びを味わう。
第6章
第6章では、喜びが一瞬にして悲劇に転ずる。
それは、二人が、相手は自分と違う世界に生きているのだという現実を突きつけられ、夢から転落する瞬間だ。
本章ですばらしいと思ったのは、ハンスが妻帯者であることを知ってショックを受けたソンジャに拒否されたハンスが、咄嗟にソンジャを貶めるようなことを言った後、自分の言葉の残酷さに気づくこと。作者はハンスを一方的な悪者に描かず、彼をも同情心を持って扱う。ソンジャが傷つくであろうことを思い及ばずに、彼女を愛人にすることを当然のように考えるハンスは確かに傲慢だが、それでも、彼の限られた世界観の中で彼女を確かに愛していたし、責任を持って彼女の面倒を見るつもりでいたのだと思える。
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