2022年11月12日土曜日

読書録:ミン・ジン・リー『パチンコ』(5) 11月8日(火)

 118日(火)


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 夕食後、二組の夫婦は銭湯に行く。

 風呂で汗を流してさっぱりした四人が仲良く家に帰る姿はほのぼのとしている。風呂上がりの四人が道を歩くシーンは懐かしさを誘う光景で、家族的な安らぎを感じる。今後の展開が楽しいものとはならないことを予想できるだけに尚更貴重な場面だ。実際、ヨセプはイサクが政治活動に巻き込まれることを危惧して、政治活動には関わるなと一生懸命弟に語り聞かせる。読みながら否が応でも不安が増す

 それでも四人が肩を寄せ合う暮らしには温もりを感じる。「外の通りは静まり返って真っ暗だ。しかしこの小さな家には明かりが灯り、清潔で輝くようなぬくもりが満ちいている」という一文は、渦巻く差別と貧困と迫り来る戦争の下であっても、四人の暮らす家には安らぎがあることを感じさせてくれる。


 この夜はソンジャとイサクにとって実質的な初夜でもある。二人に与えられた狭い部屋を作者が描き出していく間、私はソンジャと一緒になって、イサクと寝ることにドキドキする。「ふすまを透かして隣室の明かりがこちら側の部屋をほのかに照らしていた」と書かれるのを読むと、隣の部屋で寝ている兄夫婦に音を聞かれたらどうしよう、と意識する。ミン・ジン・リーは、ディテールを疎かにしない。初夜であればこういうことが気になるだろうなと思うことを一つ一つ書き記していくので、自分がそこにいるような気になる。一緒に布団に入る二人の様子は初々しく、清々しい。ここでも、ソンジャを取り扱うイサクの優しさがハンスの荒々しさと対比される。

「この人が自分の夫なのだ。これからこの人を愛していくのだ」という一文で章は幕を閉じる。

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東浩紀がいま考えていること・7──喧騒としての哲学、そして政治の失敗としての博愛 @hazuma #ゲンロン240519

先日見たシラスの番組で色々考えさせられたので、感想をこちらに転記します。 「この時代をどう生きるか」という悩ましい問題について多くのヒントが示された5時間だった。